漢字教育士ひろりんの書斎漢字の書架
2015.1.  掲載

 漢検漢字教育サポーター養成講座 漢字学各論Ⅱ レポート

   

質問への回答

2013.2.11提出

1.「部首」には、なぜ「首」という字がついているのですか。また私の使っている漢和辞典では「水の部」「手の部」とありますが、「部」と「部首」とはどう違うのですか。

A 漢字を分類するとき、「水の部」「手の部」など、字が含む部品(主として意味をあらわす部品)ごとにグループに分ける方法がよく用いられます。その部品を、それぞれの部を代表する字(ここでは「水」「手」)として、部首と呼びます。首には首領、党首など、「かしら」という意味があります。

追記)漢字を部首別に分類した最古の字書は「説文解字」である。この字書では、上記の「それぞれの部を代表する字」を各部の先頭においた。すなわち、「部首」とは、「それぞれの部の筆頭の文字」を意味するものと考えられる。なお、現代日本の多くの漢和辞典では、例えば「さんずい」は水とは別の部として分類されているが、その部の筆頭にさんずいが文字として載っているわけではないので、本来の意味ではさんずいは部首とは言えないということになる。

2.筆順は昔と今とでは変わっているのですか。

A 日本では、公式に筆順を決めたものは昔からありません。決まっていないものが変わるはずはありませんね。
 ただ、当用漢字の制定後、昭和33年に、文部省が「筆順指導のてびき」という冊子を発行しています。これは大臣告示のような正式なものではなく、あくまで教育の便宜上作られたもので、これ以外の筆順を「否定しようとするものでもない」とのことわりが書かれています。
 このてびきの作成の際に筆順のサンプルを書いた書家が、行書の筆順を楷書に持ち込んだため、戦前の教育を受けた人の筆順と違いが生じたとのことです(藤堂明保著「漢字の過去と未来」岩波新書)。この結果、「昔と筆順が変わった」とのうわさが広がったようです。
 でも、このてびきに準拠した筆順が教科書に載ると、やがて教師も「この筆順でないと間違いだ」と教えるようになりました。私もそのせいで何度も×をつけられましたが、「正しい」「間違い」の根拠としてはあいまいなものです。
 現在もこの「手引き」を遵守して教科書を作っている会社と、文字によっては独自の基準を使っている会社があるため、昔と今で違う筆順が教えられている場合があります。
 筆順は、上記のとおり楷書と行書・草書では違いますし、甲骨文や金文の時代は全く違ったでしょう。今でも、美しく早く書けるのなら、こだわる理由はありません。皆が「これでないと間違い」という意識から卒業する必要があるでしょう。


3.小学校の教科書では「令」ですが、中学校の教科書では「」となっています。どうしてですか。

A 手で文字を書く場合、活字とそっくりに書く人はいません。微妙に違う場合もありますが、この字のようにかなり違う場合もあります。現在、常用漢字表に記載されているのは「」のほうですが、同表の「(付)字体についての解説」で、筆写の場合の字体の例が示されていて、この字の場合、手書きでは「令」と「」のどちらでもよいとされています。
 もともとこの字は屋根の下で人が平伏している形なので、のほうが近いとは思いますが、手書きの場合は令のほうが優勢で、楷書や教科書体のフォントはほとんどこちらを採用しています。手書きを重視した結果、教科書会社も、小学校では令を採用しているのだと思われます。


4.「魚・思・胃・細」などには、どうして「田」がついているのですか。

A これらの字の「田」に見える部分は、実はそれぞれ成り立ちが異なっています。甲骨文の時代は、事物の形に従っていろいろな形をしていた部分が、字体が整理されて楷書が成立する過程で、同じ形になったものです。白川静著「常用字解」(平凡社)では、魚の「田」はうろこが交差する線、思・細の「田」は「ひよめき」(幼児の頭蓋骨の縫合線)の形、胃は胃袋の形と読み解かれています。